『Floodland』は崩壊した世界を舞台にしたサバイバルコロニーシミュレーションだ。
気候変動によって海面が上昇し始めるなか、「あの日」を境に世界はがらりと姿を変えた。
今にも崩れそうな廃墟、倒れた巨大な給水塔、存在する意味を無くした駐車場……。賑わいを見せていた街の姿はもう無い。
残された人たちとともに荒れ果てた土地で集落を作り、生活を立て直すのが目的となる。
復興の過程でさまざまな主義・主張を持つ共同体と交わるのが本作の特徴だ。通常のコロニーシム要素とは別に複数の意見が対立し合う共同体として、最適解を探し続けることの難しさを感じさせる。
この記事ではエンディングまでプレイした筆者が『Floodland』のゲームシステムやメインストーリーを中心にレビューしていく。
ジャンル | コロニーシミュレーション |
発売元 | Ravenscourt |
開発元 | Vile Monarch |
プラットフォーム (ストアリンク) | PC (Steam) |
発売日 | Steam:2022年11月16日 |
プレイ時間 | 18時間 |
- サバイバル要素が好きな人
- 廃墟、終末、ポストアポカリプスが好きな人
- 『Frostpunk』など、コロニーシムが好きな人
本記事はPLAION Japanから商品提供していただき、作成しています。
『Floodland』ゲームシステム
『Floodland』ではゲーム開始時に最初の「クラン」を決める。
「クラン」は4つあり、以下の組み合わせでマトリクスを形成している。
- 古き世界↔新しき世界
- 自由↔結束
共同体で何か意思決定する際には「クラン」に沿って進めるとよい。
クランとは、共同体が有する価値観とか「ポリシー」ってところかしら。
実例で説明しよう!
筆者が最初に選んだクラン・消防団は「新しき世界・自由」の組み合わせだ。かんたんに言えば、古い価値観にとらわれず個人を尊重する人々の集まりだ。
自クランの住民が他クランの住民と結婚するとき、選択肢からクランに沿ったものを選ぶと「2人に決めさせればいい」が妥当だ。それ以外の選択肢を選ぶと不満が溜まり、治安が悪化しやすい。
クランを決めた後はコロニーシム定番の流れだ。周囲を探索し、生存に不可欠な食料・水を集めながら住人を増やしていく。
科学アドバイザーであるニコール・ジョンソンによって次々と目標が示されるため、何をすればよいか迷うことはない。コロニーを発展させつつ、メインストーリーも追える作りとなっている。
研究ポイントを消費してスキルツリーをアンロックしていき、原始的な生活を徐々にアップデートしていく。
最終目標を達成するとエンディングとなる。
『Floodland』レビュー
社会の縮図として描かれるはずだった”クラン”
『Floodland』の特徴であるクランは、厄介な存在だ。
コロニー内にクランが1つしかないのであれば、そのクランの主義を基準としてコロニー運営すればよい。
しかし、探索によって別の主義を持つクランを引き入れると運営は一気にややこしくなっていく。
イベントや法律の制定によって自らの主義に反する選択がなされた場合、そのクランに不満が生まれるのは前述のとおりだ。
そしてコロニー内に所属するクランが増えるほど、各々の違いに不満を溜めていってしまう。
多様性を認めようとするほど揉めるって、よくある話ね。
つまりは現代社会の縮図ってこと!
「クラン」は分断される現実の社会を反映している。保守か革新か。国家を左右する重要な場面だけでなく、日常至るところに主張の相違が現れ、小競り合いが起こる。
クラン同士の交流の場として食堂や焚き火が用意されているが、交流によって分断が埋められることはない。
では不満が高まったクランをどうすれば良いのか。手っ取り早く解決するには対立するクランを別の島に住まわせるのが一番だ。顔を合わせることが無くなった住民たちは不満を持つこともなく快適な生活を手に入れる。
果たして、こんな解決方法でいいのか。多様な価値観を受け入れて共同体を作り上げるという理想からすると、あっさりと住み分けをして終わりで良いのかという疑問は残る。
一方で作業の面ではクラン分けが有効に機能している。
クランにはそれぞれの特徴があり、収集のスピードが早い、食糧の消費が少ないなど過酷なサバイバル生活の役に立つものが多い。
元々持っていたスキル以外にもクランごとに蓄積される経験値を使って取得できるスキルが5つ用意されている。
すべてのスキルをバランスよく取得することも可能だが、一部のスキルに特化したクランを用意して専門職として割り当てるほうが作業効率は高まる。
ただこれは作業グループ的な意味合いが強い。全体として見ればクランの対立ばかりが目立ってしまい、プレイヤーにとって面倒な存在に映ってしまった。
コロニー運営まわりは快適と言えるまであと一歩
『Floodland』のコロニー運営はおおよそ快適だが、いくつか気になる点があった。
おおまかに分けると以下の3点+αだ。
- 収集・製造制限ができない
- 重要な素材の製造が困難
- 法整備が意味をなさない
収集・製造制限ができない
素材や製造品は貯蔵庫で管理する仕組みで、保有できる数には上限がある。なにかを多く保管すれば別のものは保管数が減ってしまう。
素材ごとにいくつ集めたら収集を止めるというような制限がかけられるコロニーシムもあるが、本作には制限機能がない。結果、ごみばかり集めて水の備蓄がゼロというピンチに遭遇した。
何かを一つ手に入れたら、一つは捨てるの。
東京の狭い住宅事情と全く同じね!
画面上部に表示される数量を見ながらこまめに施設をストップすれば回避できるが、もう少し気が利いているとよかった。
途中から怪魚イベントがエンドレスで起こって、魚釣りが役に立たなくなったのもあったな……
重要な素材の製造が困難
本作に登場する素材の多くは再生産可能だ。
魚やきのこ、ハーブは何度でも再生される。それは生い茂る木や漂着するごみも同じだ。しかし、作り出すのが困難になったものが2つある。石とスクラップだ。
ストーリーも中盤になると建築資材は木材やごみから石やスクラップに移り変わっていく。今までより消費量もあがるのだが、周辺から収集した後は探索隊を派遣して廃墟を探索するのが主になる。
探索隊は1つしか派遣できない上に持ち帰れる量にも制限があるため、骨が折れた。
ゲーム内ではれんが工場で石を生産できるようだが、スキルツリーに見当たらなかった。マップ探索の途中でスクラップ工場を見つけたため、おそらく探索を続ければれんが工場も見つかるかもしれないが、特定の素材だけが運に左右される作りなのはかなり不便だ。
新しくゲームをはじめる度にマップが変わる試み自体はおもしろいんだけどね……
法整備が意味をなさない
ストーリーが進むと法律がアンロックされる。
すべてが適用可能なわけではなく、どちらかを選ぶともう片方は選択できなくなるような法律もある。たとえば、警察の設立を選ぶと民兵組織の設立ができなくなるといった具合だ。
並べられた法律にはソーシャルディスタンスやロックダウン、マスクの着用義務といった昨今の世相を感じさせるものもある。
さまざまな法律が用意されているが、筆者が実際に使用したのは数えるほど。不満を一時的に下げるために使用した「リーダーの演説」とごみのなかからたまに良い資源を取得できる「回収会社」ぐらいだ。
法律を積極的に制定しなかったのには前述のクランが影響している。
何かを制定すればクランから不満が出る。それに対処する労力を大きく上回るようなメリットはあまり感じられなかった。
法律システムを組み込むのであれば、もっと大きなメリットがなければ、有効に活用するのは難しいだろう。
規律を重んじるクランであれば、ガチガチに法律で縛るのも有効なのかもしれないわね。
試される英語力
ときどき英文の選択肢が出現することがあり、困惑した。
気になる部分はあるが、サバイバルコロニーシムとしての基本は押さえている。
少ない人数から徐々にコロニーを拡大・近代化していく楽しみはしっかりと残っており、まだ見ぬ土地の探索は気持ちが踊る。
同系統のタイトルと比較して難易度が抑えられているため、興味はあっても難しそうだから……と敬遠していたプレイヤーが最初に遊ぶ1本としては良いチョイスになるだろう。
動作が重い
『Floodland』でネックになるのは動作の重さ。
コロニーがまだ小さいうちはスムーズに動いていたのだが、コロニーの人口が120人程度になってくるとオートセーブのタイミングで重さが目立った。フリーズしたまま数分待たさせることもあり、進行の妨げになる。
一度、前触れ無くゲームが落ちたことから、オートセーブを外すこともできず、セーブ間隔を長くすることで妥協した。
たった120人のコロニーでも動作が重くなってしまうのは改善してほしいポイントだ。
長時間プレイしているときは再起動すれば一時的に軽くなるよ
アートワークと演出は胸熱
『Floodland』のアートワークは個性的だ。プロローグムービーにも洗練されたかっこよさを感じた。
メインストーリーは章立てになっており、それぞれの章がはじまるタイミングで猛々しいボーカル曲が流れる。
音楽を使った切り替えは効果的だ。新しい章に入ったことを印象づけ、心踊らせる。いい演出だった。
曲自体もすごく良いんだよなー。サントラ待ってます!
断片を集めて「あの日」の真相に迫る
『Floodland』はコロニーシムを発展させる以外に、この世界がなぜ崩壊したのかを探っていく一面もある。
各地に点在する島や廃墟を探索すると時折メモを発見する。メモはメインストーリーを補完する役目があり、過去に起こった出来事を理解するには欠かせないアイテムとなっている。
ストーリーには破綻がなく、一応納得できる真実が示されている。
『Floodland』総合評価
『Floodland』は崩壊した世界を舞台にしたサバイバルコロニーシミュレーションだ。
「あの日」を境に何もかも失ってしまった住民たちを率い、世界の再興を目指してコロニーを発展させる。
難易度はやや低く、入門編としておすすめできるが、コロニーの人口が増えると動作が重くなる弱点がある。また、本作の最大の特徴である「クラン」の統治という点では今ひとつ疑問が残った。
美しいアートワーク、優れた音楽を生かした演出が効果的に使われ、気分が高揚する。
メインストーリーとその補完としてのメモによって明かされる「あの日」にいたるまでの出来事は必要最低限の描写のみで、シンプルで余白のあるストーリー作りは優れていた。
はじめてサバイバルコロニーシムをプレイする方におすすめしたいタイトルだ。
- 優れたアートワーク
- ワクワク感を演出する音楽
- 探索によって真実が明かされる作り
- 機能したとは言い難いクラン
- かゆいところに手が届かないコロニー運営
- コロニー拡張で動作が重くなる
- PC (Steam)
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