都会で働く人々が市民農園を借りたり、定年後に農作業をはじめるのは土いじりでストレスを解消できるからだろう。
そしていろいろな雑念に惑わされずに無心になれるのも大きいのかもしれない。
しかし、農作業は気軽にはじめるにはハードルが高い。そこに酪農が加わればなおさらだ。
それならばいっそゲームにしてしまえばよいのではないか。そこで登場するのが『スターデューバレー』だ。
『スターデューバレー』は牧場シミュレーションゲームの体を取っているが、その実、田舎暮らしシミュレーションゲームだ。
農作業や家畜の世話をしながら、自由な生活を謳歌することでプレイヤーは日々のストレスから開放される。
都会に疲れた主人公が脱サラして、祖父が残した牧場を再興していくというストーリーがなんとも現代日本のサラリーマンのようにも感じられる。(海外のゲームだが……)
この記事ではPS4版『スターデューバレー』のレビューをお届けする。
ゲーム性はほぼ『牧場物語』
牧場シミュレーションといえば『牧場物語』が有名だ。シリーズとして30作近くリリースされており、ブランドを作り上げたと言っても過言ではないだろう。
『スターデューバレー』はその『牧場物語』のオマージュと言ってもいいようなゲームだ。
ゲーム内で行うのは、
- 農作物の種まき・収穫
- 酪農
- 釣り
- 採掘・冒険
など、そのほとんどが『牧場物語』に近い。
農業
春・夏・秋はそれぞれの季節にあった種を商店で購入して植える。
- 耕して
- 肥料をまいて(省略可)
- 種を植えて
- 水をやる
あとは毎日水をやれば、作物は勝手に育つので、収穫して出荷。この流れで収益を得る。
作物を植えただけではカラスに荒らされるので、カカシも必要。ゲームが進むにつれてクラフトできるスプリンクラーがあると水やりが楽になる。
酪農
資金が貯まってきたら、大工に頼んで家畜の小屋を建てられる。
小屋の種類やアップグレードによって飼育できる動物が増えていく。
飼育動物は
- ニワトリ
- アヒル
- ウサギ
- 乳牛
- ヤギ
- ヒツジ
- ブタ
と一般的なものから、
- 恐竜
- 黒ニワトリ(魔女がもたらしたたまごから負荷する)
- スライム
など現実離れしたものもある。
家畜は世話をしていくなかで成長していく。より品質が良いものを生産するには毎日家畜をなで、愛情をかけて育てることが重要だ。
素材はそのまま出荷するよりも、
- たまご→マヨネーズ
- ミルク→チーズ
- ウール→布
などに加工してから出荷したほうが高く売れる。
釣り
住人から釣り竿をもらうと釣りができるようになる。
町中にある海や川、湖などで魚を釣り上げ、販売したり調理したりできる。
『スターデューバレー』ではこの釣りが最初の鬼門になりえる。なにせ最初は釣り方がさっぱり分からないので、私はかなり苦戦した。
「もう釣りはいいか……」とも思ったのだが、何度も繰り返してやっとやり方が分かってきた。
ボタンを押せば押すほどゲージが上がるので、魚が上昇した分だけボタンを押さなければいけない。
攻略サイトによってはボタンを連打するのがよいなどと書いてあるが、それは慣れてからの話でコツを掴むためにはどれぐらいボタンを押したらどれぐらいゲージが上がるのかを体で覚えていくほかない。
あきらめずに釣りを続けることで釣りレベルがアップするとゲージも長くなり、釣りやすくするアイテムもクラフトできるようになるので、本当に最初が一番ツラい。
慣れてからは結構釣れるようになるので、おもしろくなってくる。
採掘・冒険
石をツルハシで壊していくと鉱石が出てくることがある。鉱石の種類によってはクラフトに欠かせない材料にもなりえるため、精力的に採掘することで他の作業を楽にしたり、収入を増やすことにつながる。
採掘のメインは洞窟だ。洞窟にはスライムをはじめとするモンスターがいるため、剣とツルハシを持ち替えながらどんどん下に進んでいく。
モンスターと遭遇した場合は、剣で戦うアクションとなっている。
私はアクションが得意でないため、進むスピードは遅かった。
深夜2時までという制限時間もあって、スムーズに進んでいったとしても何度も洞窟にくることになる。
しかし、5階ごとにエレベーターがあるため、最初からやり直さなくても良いところはありがたい。
すべてをやる必要はなく、自分がやりたいことをやるだけでもいいというコンセプトは感じるが、鉱物を手早く採掘には冒険が欠かせないため、牧場をいち早く発展させたい場合は結局ひと通りやる必要がある。
いろいろな要素の解放と救済措置
アンロックに使うのは公民館
『スターデューバレー』には廃れた公民館がある。
館内には不思議な生命体がいて、求められるものを渡し終わるといろいろな要素がアンロックされる。
アンロックされる要素は
- 橋の修理
- 温室の修理
- 洞窟横の石をどける
- トロッコの修理
- 友好度アップ
- バスの修理
となっており、それぞれ町での暮らしに大いに役立つ。
たとえば《温室の修理》では牧場内にある荒廃した温室を修理し、使えるようになる。
温室は季節に関係なく作物を収穫できるため、外では作物が育てられない冬に重宝する。さらに春の作物を夏や秋に育てることも可能だ。
救済要素としての行商人とJojaマート
公民館を使用した要素のアンロックは作物や魚などを集めなければならず、必ずしも自分がやりたいプレイと一致しないかもしれない。
たとえば、釣りが苦手で対象の魚を釣れない場合は一向にアンロックできなくなる。
『スターデューバレー』では必ずしも自らアイテムを集めなくてもいいように、牧場の南にくる行商人からアンロックに必要なアイテムを購入する。
もしくは町にあるスーパー・Jojaマートの会員になって公民館を取り壊し、Jojaのフォーラムに費用を払って、それぞれの要素をアンロックすることができる。
金銭で解決する方法も用意することで、プレイヤーが苦手、もしくは好きではないプレイをしなくて済むように作られている。
住民との深いふれあいと柔軟な結婚制度
住民との深いふれあい
スターデューバレーにいる住民はその性格もさまざまだ。
最初から感じの良い人もいれば、素性の知れない主人公に冷たく接する住人もいる。
それ以外にも男性町長のパンツがとある女性の家から見つけることもあり、妙に生々しい。
住人とは会話をしたり、プレゼントを渡すことで友好度を高められる。
友好度が上がるとレシピを教えてもらったり、特別なイベントが発生したりする。
私が印象的だったイベントは、町外れでテント暮らしをしているライナスとのイベントだ。
ライナスの友好度8イベントのネタバレを含む
ライナスは町中にきてはゴミを漁っており、主人公と最初に会ったときもそっけなく、強い拒絶を感じた。しかし、交流していくなかで、心優しい人物像が見えてくる。
そして主人公は大工のロビンからランチを作ってあげるとの申し出を受けたライナスが「今日は食糧探しで成果があった」と申し出を断っている場面に遭遇する。
そこで主人公はライナスにかける言葉を「牧場で一緒に暮らそう」or「元気そうでよかった」のどちらか選ぶ。ここでは「元気そうでよかった」と答えるのが正解だ。
するとライナスは「主人公のことを一番近しい友達だと思っている。なぜならライナスを決して『正そう』としないからだ。理解できなくても、主人公はライナスの生き方を尊重してくれた」と言うのだ。
ライナスは一見かわいそうな人に見える。しかし、彼は自分が選んだ生き方の中で暮らしていくことが大切なのだ。必ずしも妙な同情心が求められるわけではないのだと感じる印象的なイベントだった。
柔軟な結婚制度
『スターデューバレー』では特定の住人たちと結婚できる。
私は主人公を女性にしてプレイしたが、どうも結婚対象の男性たちが気に入らなかったので、女性同士で結婚ができるか試してみることにした。
よく作物の種を買いに行くピエール商店の娘・アビゲイルの厨二病感が気になってアプローチを続けた結果、問題なく同性婚ができた。性別にこだわらずに家庭を持てるのは素晴らしい。
結婚後にアビゲイルが牧場に引っ越してくると勝手に部屋が増設されており、アビゲイルは自分の時間を過ごしていた。
柵を修理してくれたり、家畜にエサを上げたり、作物に水をやってくれたりと主人公に協力してくれるので、ありがたい。
懐かしのグラフィックとプレイを妨げないBGM
『スターデューバレー』は懐かしの2Dグラフィックとなっており、私がプレイしていると家人からファミコンかと思ったと揶揄されるほどだ。
確かにPS4でプレイしていることを忘れてしまうほどレトロだが、この2Dがノスタルジーを感じさせる。
ほのぼのとしたゲーム性とマッチしており、あえて2Dでよかったと思う。
BGMも同様にほのぼの路線で、どこかやさしさを感じる曲調に癒やされるプレイヤーも多いだろう。
どちらというとBGMの切れ目で無音になったときのほうが記憶に残るほどBGM自体はあまり印象に残るものはないが、それこそがゲームにマッチしている証拠だ。
気がつくと数時間立っているほど夢中になる
『スターデューバレー』は農作業をするにしろ酪農するにしろ、ゲーム内でやることは大体同じでそれを繰り返す、いわゆる《作業ゲー》だ。
作業ゲーって楽しいのと思う方もいるだろうが、はっきり言っておこう。作業ゲーは楽しい。
農作物は植えて終わりではない。毎日水をあげて日々育っていくのを見守り、最後には出荷する。
出来の良し悪しで売価も変わるため、良い肥料をまいてみる。翌朝起きてみるとカラスにやれていて、今までの苦労が水の泡になることもある。
作物は様々な種類があるし、収穫したあとも塩漬けにしてみたり、ジャムにしてみたりと工夫して出荷することもできる。
畜産では牛やニワトリと毎日スキンシップを取って愛情をかけて育てる。その愛情が伝われば品質の良い物を生み出してくれる。
釣りもあまりに単純なミニゲーム調なのに上手くやると大きな魚が釣れるし、場合によっては宝箱が釣れることもある。
雨の日かつ特定の時間帯にしか釣れないという条件が厳しい魚もいるのが難しい。
冒険も採掘も忘れてはいけない。
モンスターを退治しつつも石を割って鉱石を集めていかないとクラフトができないし、動物小屋も大きくできない。
実際にプレイすると朝6時に起きて、農作物の世話をして家畜の面倒を見ている間にもう昼過ぎだ。
そこから住民たちと会話したり、木を切ったりしているうちにもう夕方になってしまう。
そんな日は夜まで釣りをして、夜12時には帰宅する。
冒険に行く日は昼過ぎから洞窟に入ったとしても5階下に進んだころにはもう夜12時を過ぎてしまう。
全くヒマな時間はなく、むしろ1日30時間にならないかと思ってしまうほど時間が足りない。
少しだけ進めようと思ってはじめたら数時間過ぎていたなんていうのはザラにある。
今回レビューするにあたってプレイ時間を見たら65時間だった。それでもまだまだやることはあるのだから、まさに《沼》と言えるゲームだ。
チュートリアル不足
『スターデューバレー』の唯一の不満点と言えるのが、チュートリアルが圧倒的に不足していること。
基本的には習うより慣れろのゲームスタンスなので、最初は何をしたらよいか分からないだろう。
私もよくわからずにプレイしていたが、そのうち分かってくるようになるので、もし分からないことがあればすぐグーグルで調べるなど柔軟なプレイヤーに向いている。
私が一番分からなかったのは道具のグレードアップ。
たとえばジョウロを良いものにしたはずなのに、今までと何が違うのか分からなかった。
しかし、たまたま長押ししたら、複数のマスに水がやれるようになっていて、これがレベルアップの恩恵だったのか……と思った。
ちなみにそれが分かったのは2年目の秋のことだった。
何から何まで親切に教えてくれる国産ゲームと比べると不親切さは否めない。
いずれ慣れるものなので、私は大して気にならなかったが、苦手な人はいるだろう。
総合評価
総評:傑作
5/5
ほのぼの作業ゲー好きはプレイ必須の牧場シミュレーションゲーム
『スターデューバレー』は自分の好きなように牧場を運営していくシミュレーションゲームだ。
『牧場物語』フォロワーとして農作業・酪農などの基本的なプレイシステムはほぼ同じだが、冒険要素など、本作ならではの魅力もある。
住人はそれぞれの考えをしっかりと持っており、人間関係もきれいなものばかりではない点が妙にリアルだ。同性婚が可能であるなど多様性にも富んでいる。
アンロック要素にも複数の解決案を提示し、プレイヤーに寄り添っている部分もあるが、チュートリアルがないため、初心者はとっつきにくい印象を受ける。
懐かしい2Dグラフィックとほのぼのしたサウンドにやすらぎを感じ、思わず熱中しているうちにかんたんに数時間費やしてしまう。
『スターデューバレー』はゲームに癒やしを求めるプレイヤーや同タイプのシミュレーションゲーム好きがまず買うべきタイトルだ。
- 飽きのこない牧場運営
- リアリティーのある住人たち
- ほのぼのしたノスタルジー感
- チュートリアルがなく、進め方が分かりにくい
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※記事中すべての画像の出典は『Stardew Valley』(ConcernedApe / Chucklefish / 505 Games / オーイズミ・アミュージオ)です。